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横浜地方裁判所 昭和55年(ワ)124号 判決

原告

蝦名瑩一

外六名

右原告ら七名訴訟代理人弁護士

伊藤幹郎

外五八名

被告

厚木自動車部品株式会社

右代表者代表取締役

中村弘道

右訴訟代理人弁護士

稲木俊介

被告

全日産自動車労働組合

右代表者組合長

佐野幸信

右訴訟代理人弁護士

川辺直泰

主文

一  原告らが被告厚木自動車部品株式会社に対しいずれも雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  原告らが被告全日産自動車労働組合に対しいずれもその組合員たる地位にあることを確認する。

三  被告厚木自動車部品株式会社は原告らに対しそれぞれ別紙債権目録(一)記載の各金員及び昭和六一年一一月以降毎月二五日限り同目録(二)記載の各金員を支払え。

四  原告らの被告厚木自動車部品株式会社に対するその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  この判決は第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項及び第五項と同旨

2  被告厚木自動車部品株式会社は原告らに対しそれぞれ別紙債権目録(三)記載の各金員及び昭和五五年一月以降毎月二五日限り同目録(二)記載の各金員を支払え。

3  第2項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告厚木自動車部品株式会社

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  被告全日産自動車労働組合

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被告厚木自動車部品株式会社(以下「被告会社」という。)は、資本金三三億円、従業員約四〇〇〇名を擁する自動車部品等の製造会社である。被告会社は、訴外日産自動車株式会社(以下「日産自動車」という。)厚木工場が昭和三一年六月分離独立して設立されたものであるが、現在も資本金の約四三パーセントは日産自動車が出資し、同社の部品工場としての性格を有している。

2  被告全日産自動車労働組合(以下「被告組合」という。)は、被告会社ほか日産自動車、訴外日産車体株式会社、同日産ディーゼル工業株式会社等の従業員をもつて組織された労働組合であり、被告会社の従業員で構成される「厚木支部」のほかに一五支部を各事業所に有し、組織人員は約七万二〇〇〇名で、上部団体として訴外全日本自動車産業労働組合連合会(略称・自動車労連)に加盟しており、更に右自動車労連は上部団体として訴外全日本労働総同盟(略称・同盟)に加盟している。

原告らの所属する厚木支部は、組合事務所を神奈川県厚木市恩名一三七〇番地に有し、同支部組合員は昭和五五年二月一日当時約三六〇〇名であつた。

3  原告蝦名瑩一(以下「原告蝦名」という。)は、昭和四〇年四月被告会社に入社し、同年七月被告組合の組合員となつた。

原告亀山拓児(以下「原告亀山」という。)は、昭和四一年四月被告会社に入社し、同年七月被告組合の組合員となつた。

原告岩村将幸(以下「原告岩村」という。)は、昭和四三年四月被告会社に入社し、同年七月被告組合の組合員となつた。

原告後藤徳二(以下「原告後藤」という。)は、昭和四一年四月被告会社に入社し、同年七月被告組合の組合員となつた。

原告塚本雅晴(以下「原告塚本」という。)は、昭和四四年四月被告会社に入社し、同年七月被告組合の組合員となつた。

原告鈴木勝彦(以下「原告鈴木」という。)は、昭和四二年四月被告会社に入社し、同年七月被告組合の組合員となつた。

原告小菅力(以下「原告小菅」という。)は、昭和四四年四月被告会社に入社し、同年七月被告組合の組合員となつた。

4  被告組合は、昭和五四年一〇月二五日原告らを除名する旨の決定をしたとして、同日以降原告らが被告組合の組合員たる地位にあることを否定している。また、被告会社は、同月二九日原告らを解雇したとして、同日以降原告らの就労を拒否している。

〈中略〉

6  よつて、原告らは、被告会社に対し原告らがいずれも雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と昭和五四年一一月以降の賃金(但しそれ以降のベースアップ分を除外した一部請求)及び同年度の年末一時金の支払を、被告組合に対し原告らがいずれもその組合員たる地位にあることの確認をそれぞれ求める。

二  請求の原因に対する認否〈省略〉

三  抗弁

1  被告会社の主張(解雇)

(一) 被告会社が昭和四八年三月二〇日被告組合と締結した「組合の確認ユニオン・ショップ及び非組合員の範囲に関する協定書」には「会社は組合から除名された者を原則として解雇しなければならない」とするいわゆるユニオン・ショップ協定が存在し(以下これを「本件ユ・シ協定」という。)、被告会社は被告組合からの被除名者を解雇することを義務づけられている。

(二) 被告会社は、昭和五四年一〇月二五日被告組合から同日開催された被告組合の定期大会において原告らを除名処分にすることを決定した旨の通知を受けたので、同日本件ユ・シ協定に基づき原告らを解雇する旨の意思表示をなし、右意思表示は遅くとも同月二九日までにはいずれも原告らに到着した(以下これを「本件解雇」という。)。

2  被告組合の主張(除名)

(一) 被告組合の規約中には組合員の制裁に関する次のような規定がある。

第十三条① 組合員が次の行為をしたときは制裁を受ける。

一  規約、綱領及び決議に違反したとき

二  組合の名誉を汚したとき

三  組合の統制を乱したとき

四  正当の理由なく組合費を三カ月以上滞納したとき

② 制裁は譴責、罷免、権利停止及び除名の四種とし、代議員会で決める。組合は遅滞なくこの決定を本人に通知しなければならない。

③ 除名は前項の手続によるも、第十四条の抗告ある場合は次の大会において決定する。

第十四条① 制裁を受けた組合員がその決定に不服のあるときは、通告を受けた日から二週間以内に抗告することができる。

② 前項の抗告があつたときは、最終の決定がなされるまで組合員の資格は保留されるが、代議員会の決定により必要な暫定措置をとることができる。

(二) 分派活動

(1)  原告らは、被告会社における労働条件を向上させ、組合員の権利意識の向上、被告組合の階級的強化等を標榜し、昭和四三年頃(一部原告は昭和四一年頃)から被告会社、被告組合内で次のような活動を行つた。

(イ) サークル活動

被告会社内におけるサッカー部、スキー部等の部活動

(ロ) 寮生活改善活動

原告亀山らが中心となつて行つた主として会社独身寮の改善運動と称する活動

(ハ) 労働強化、合理化をはねのける闘いの活動

(ニ) 学習会活動

原告らは、昭和四四年頃から原告蝦名、同亀山、同岩村及び同塚本が中心となつてそれぞれ学習会を組織し、被告組合員が多数勧誘され、これに参加した。

(ホ) カンパ活動

原告らは、昭和四四年三月訴外有村正二がプレス機を操作中に事故にあつたことを理由として、主に原告岩村、同亀山が中心となつて被告会社の責任追及と有村に対するカンパ活動を行つた。

(ヘ) 機関紙「赤旗」の配布並びに拡大活動

(ト) 細胞組織の強化活動

(チ) 「労働問題研究会」及び「明るい厚木部品をつくる会」の組織化活動

原告らは、昭和四五年二月頃訴外島田一徳らとともに「労働問題研究会」(以下「労研」という。)を結成し、主としてアンケート調査活動、「じゆんかつ油」その他のビラの発行及び配布活動を行い、更に昭和四八年九月労研を解消し「明るい厚木部品を作る会」(以下「明厚会」という。)を結成し、「ぶひん」等のビラの被告会社門前配布等の定期化、労働強化及び労災事故の調査その他の活動をした。

(リ) ビラ「じゆんかつ油」「ぶひん」等の発行・配布活動

原告らは、昭和四六年初め頃労研発行名義のビラ、同年一〇月頃からじゆんかつ油編集部又は第二製造課じゆんかつ油編集委員会発行名義の「じゆんかつ油」なるビラ、昭和四七年一月頃から職場新聞“ぶひん”編集部発行名義の「ぶひん」なるビラ、昭和四八年九月頃から日本共産党北部地区宣伝部発行名義の「赤旗読者ニュース」なるビラ、同年一〇月頃から明厚会発行名義のビラ、その他の発行名義の多数のビラ並びに「赤旗」等を小田急線本厚木、伊勢原、大秦野等の駅前、被告会社の門前付近並びに被告組合員の自宅、寮等で配布し現在までこれを継続している。

原告らが発行、配布したビラの主な内容は別紙ビラ一覧表記載のとおりである。

(ヌ) アンケート調査活動

(ル) 組合役員への進出活動

(2)  右のような原告らの活動は、いずれも日本共産党の党細胞又は党支部の総会で討議され決定された方針に従つて党細胞又は党支部の活動として行われるものである。しかして、原告らの活動の目的は、党細胞又は党支部による被告組合の破壊ないし支配にあり、右労研、明厚会は目的遂行のための党細胞又は党支部の公然組織且つダミーである。特に明厚会は、日本共産党の方針を踏まえた呼びかけ、綱領、規約、活動方針をもつ明確な組織体であり、組合民主主義を口実に被告組合の中に被告組合の運動の基調に反する階級闘争路線を持ち込み、その宣伝活動等を通じて被告組合を「敵」として位置づけ、攻撃し、組合員をして被告組合に反抗して分派的活動に走らせるためのものであり、労働運動を仮装した日本共産党の被告組合破壊ないし支配のための組織である。かように原告らは、右組織の中で企画、決定された方針に従い前記の諸活動を通じて日本共産党の組織拡大と被告組合破壊ないし支配のために分派活動を行つたものである。

(3)  したがつて、原告らの前記諸活動は、被告組合規約第十三条第一項第三号の「組合の統制を乱した」に該当することは明らかである。

(三) 名誉毀損

(1)  原告らは、右(二)(1)(リ)で述べたように「ぶひん」その他のビラを被告会社の従業員、組合員はもとより一般市民にも配布したのであるが、同ビラの中には組合(自動車労連、日産労組及び同厚木支部)を誹謗、中傷し、事実を歪曲して、組合、組合執行部、組合の運動や活動方針を非難して執行部、組合役員と一般組合員を離間分断し、組合内に動揺、混乱を生じさせることを企図した不当なビラが多数存在した。

(2)  原告らの右行為は、被告組合規約第十三条第一項第二号の「組合の名誉を汚した」に該当することは明らかである。

(四) 被告組合は、昭和五四年九月一四日組合代議員会において組合規約第十三条第一項第二、第三号、同条第二項により原告らを除名する旨を決定し、その旨を原告らに通知した。これに対し原告らはいずれも組合規約第十四条に基づく抗告の申立を行つたので、被告組合は同年一〇月二五日組合大会において原告らの抗告を棄却し、前同様の理由により原告らを除名する旨の決定をし、同日これを原告らに通知した(以下これを「本件除名」という。)。

四  抗弁に対する認否及び原告らの反論

〈中略〉

3 原告らの反論

(一)  原告らの活動

(1) 原告蝦名の活動

原告蝦名は、入社後間もなく被告会社における賃金水準をはじめとする労働条件の劣悪さを知るにつけ、被告組合を通じて少しでもこれらの状態を改善すべく次のような活動をした。

まず昭和四一年八月の組合役員の定期改選に当たつて、原告蝦名の所属するブロックの代表として選出される職場委員について、真に働く仲間の利益を代表する者を選出させる目的で、職場の労働者にその意義と必要性を説いて、被告組合推薦の立候補者と対立する候補をたて、職場の八割の支持を得てこれを当選させ、次いで、昭和四三年八月組合役員の定期改選において課内全員の推薦を得て、原告蝦名は職場委員に選出された。そして職場委員会を組合員の要求や意見に基づきこれを解決する場にするためさまざまな活動をした。例えば、他の職場委員を説得し経営協議会活動の一環として部門別懇談会を開かせ、その中で組合員の要求を五〇項目にまとめ、その実現に努力し、その結果被告会社にクーラー設置等の約束をさせた。また、被告組合のあり方についても、当時組合役員選挙は無記名秘密投票制が守られていなかつたため、職場委員会に提案し、社会で一般に行われているような方法(衝立を設けた投票場をつくる)を採用させ、その近辺を組合役員や職制がうろつくことを禁じさせた。そして更にこのような運動を真に職場に根を張つたものにしていくため、昭和四四年一月設計部部内有志で学習会を設置し、これを定期化し、「労働運動はどうあるべきか」などを学習し合つた。

(2) 原告亀山の活動

原告亀山は、入社以来課内の行事にもできる限り参加し積極的に行事を盛り上げるため活動し、入社二年目で検査課の親睦会の幹事と組合青年部の理事になり、その先頭に立つて行動し、組合青年部運営委員を一年間経験した後、昭和四三年二月同評議員に選出され飯山工場に移つてからも評議員として行動した。

また、原告亀山は、被告会社の福利厚生施設が劣悪であることからこの改善のため当時住んでいた被告会社の独身寮(緑ケ丘寮)の改善運動をすすめ、昭和四二年九月から昭和四四年九月までの寮役員期間中、入寮者の要求を取り上げ一〇〇項目以上の要求を被告会社に提案し、その結果設備改善要求については八〇パーセント以上を実現させた。

(3) 原告岩村の活動

原告岩村は、入社当初同期入社の労働者の間で「若草の会」を結成したり、被告会社の独身寮(緑ケ丘寮)において北海道出身者を集め「道産子の会」を作り、親睦を深めることに努力した。

また、入社後半年位してから労働組合のあり方や被告会社の労務管理に疑問を抱くようになり、原告亀山らとともに同期入社の労働者を組織して学習会をもつようになつた。そうした中で、被告会社における労働条件が他社に比べてあまりにも劣悪であることに気付き、これを改善し真に働きやすい職場にして行く必要を痛感し、次のような活動に取り組んだ。すなわち昭和四四年三月製造部第三製造課の訴外有村正二が右手首切断の労災事故にあつたが、右は被告会社の安全性を無視した生産性向上本位の労務管理に問題があるとして、原告亀山らとともに被告会社の責任追及と有村に対するカンパ活動を寮中心に展開した。また、昭和四四年以降春闘、一時金闘争などでは、職場の労働者からアンケートをとり、要求を集約し、被告組合に反映する活動を行つた。

(4) 原告後藤の活動

原告後藤は、被告組合員となつて間もなく行われた組合役員選挙において対立候補がなく、信任投票、不完全連記制をとり、候補者は被告会社の職制であり、立候補に当たつての抱負も公約も明らかにされないまま投票するようになつていたことに多大の疑問を抱き、かような選挙のやり方を通じて被告組合に不信を抱くようになつた。そして被告組合が昭和四二年暮自動車労連副会長の田淵哲也を民社党から立候補させるに当たり職場大会で支援の決議をした際、原告後藤がこの支援決議に反対したことをもつてその日のうちに執行委員と職場長に呼び出され、「会社をやめるか、考え方を変えるか、どちらかにしろ」と脅されたことがあり、原告後藤は被告組合の体質に決定的な不信感を抱くに至つた。このようなことがあつてから原告後藤は、被告会社の賃金水準が低いのはかような被告組合の姿勢に問題があると気付き、被告組合を真に民主的で自主的な組合にしなければ労働者の生活と権利を守ることができないものと確信し、それ以後職場大会等で職場の切実な要求や意見を積極的に述べてきた。

(5) 原告塚本の活動

原告塚本も被告組合員になつて間もなく組合の選挙・職場大会のやり方や労使協調の姿勢に疑問を抱き、緑ケ丘寮に住んでいた仲間と組合活動についての学習会を持ち、職場大会等で積極的に発言するようになつた。

(6) 原告鈴木の活動

原告鈴木は、昭和四六年春、賃闘討議の職場大会において「住宅手当を支給して欲しい」と発言したところ、当日のうちに被告組合の役員から組合事務所に呼出され、「あんな発言をするんじやない、職場委員に話しておけばわかる」と注意を受けた。かように組合員として率直な意見を表明したことに対して組合役員から注意を受け、逆に真の組合活動とは何であるかと関心を抱くようになつた。

(7) 原告小菅の活動

原告小菅は、被告組合員となつてしばらく後、被告組合の役員選挙やその運営に疑問を抱きはじめた。また、寮生活改善運動に参加し、昭和四五年寮生活改善のためのアンケート調査を行つた。

(8) 「労研」を通じての活動

以上のように原告らは、被告会社における労働条件を向上させ、組合員の権利意識の向上、組合の階級的民主的強化のため職場大会等において積極的に発言し、あるいは被告会社の福利厚生施設である独身寮において寮生活改善のため設備・環境・衛生面の改善要求運動を行つてきたが、被告会社は、これらの運動を嫌悪し、運動の中心となつた原告らに対しあるときは被告組合幹部と一体となつて様々な弾圧・攻撃を加えた。そこで原告らは、これら違法不当な行為に対し団結して闘うため、昭和四五年二月設計部及び第二、第三、第五製造課の組合員有志を中心に組合の民主化と労働条件の向上を目指し「労研」を結成し、次のような活動を行つた。すなわち

(イ) 原告らは、春闘、一時金闘争のたびごとにアンケートによる要求活動を行い、それをまとめて職場大会などを通じて被告組合に反映させるべく活動し、また、多発する労働災害を防止すべく被告組合や被告会社がその安全対策や労災をうけた労働者に対して万全な救済措置をとるよう職場新聞に記事を載せるなどして活動した。更に「労研」の会員として同会が取り組んだ労働条件改悪反対の活動や労働条件を向上させる活動に積極的に参加した。例えば昭和四五年七月従来無料であつた被告会社の駐車場使用について、会社と組合幹部との間で、使用している組合員の意見を聞くことなく一方的に有料化する旨の協定が結ばれたが、これにつき原告らは、団交をもつて再考するべきであるという内容の「労研」名義のビラを被告会社門前で配布し、広く組合員に訴えた。また、昭和四六年一〇月の「夜勤五日制」導入時において(夜勤五日制により定時間が一時間延長されることになる)、真に労働時間短縮になる夜勤五日制の実施を掲げてビラを配布したり職場大会において発言した。

(ロ) 「じゆんかつ油」の発行活動

昭和四六年一〇月第二製造課に勤務する原告塚本、同後藤、同鈴木、同小菅らが中心となり職場新聞「じゆんかつ油」を創刊し、職場の人人に配布した。これは「日頃口に出して言えない不満や要求を解決し、そして真に明るい職場を作るためにはどうしたらよいかを皆んなで考えよう」をスローガンに発行されたものであるが、以後毎号五〇ないし一〇〇部を昭和四七年一一月まで発行し、職場の仲間をつなぐパイプとしての役割を果した。

(ハ) 「ぶひん」発行活動

「労研」では昭和四七年一月から職場全体に共通の新聞「ぶひん」を発行した。これは組合員の意見・要求又は職場の状態を反映する新聞の必要性から行われたものであり、「皆に知つてもらいたいこと、わかつてもらいたいこと、訴えたいこと」を掲載する方針のもとに原告ら全員が編集委員となり、毎月定期日に発行し、その内容は組合員の意見や要求に関するもの、賃上げ、一時金闘争の資料等であつた。

(9) 「明厚会」を通じての活動

原告らは、昭和四八年九月「労研」を発展的に解消し、「明厚会」を結成した。同会はその規約にもあるように「厚木部品に働く労働者によつて構成され」、その目的は「厚木部品の労働者の生活と権利を守り高め、労働組合を民主的で真に働く者の立場に立つたものにすること」である。そして要求実現のために被告組合を突き上げることはあつても、「要求実現のための相手は組合役員ではなく、経営者・資本家にあるのだということを見落してはならない。」とその綱領に明記し、その立場で活動を継続した。

「明厚会」では「労研」時代に発行していた「ぶひん」の発行を引継ぎ、特に組合員の経済的要求をも積極的に取り上げ、昭和四八年以降の各春闘、一時金闘争における検討資料として企業分析、地域各社との比較、アンケート調査の結果報告等の記事、妥結後の職場の反響に関する記事等を掲載した。

(二)  右のとおり原告らの活動はすべて労働条件の改善その他労働者の経済的地位の向上という団結の目的を達成しようとする活動であり、組合運営の民主化を求める自主的活動である。

「労研」は被告組合の現状に疑問を抱いた原告らが自己研さんとして始めたり参加した主として研究団体であり、研究の実践として駐車場有料化問題のビラを配布したり、労働組合の運営の民主的あり方について労働者に訴えたにすぎない。「明厚会」は前述の結成趣旨からして何ら被告組合の方針に反するものではないし、「労研」の活動が運動主体となり、しかも会員が暴力的攻撃を受ける中でやむを得ず組織的に整備したものである。原告らの配布した職場新聞は、経済闘争に関する要求・資料、労働条件の改善、労働災害の問題点、組合運動の問題点、組合執行部の問題点などを記事にし、職場労働者の交流、連帯の場とし、要求・意見を汲み上げ、集約、教宣活動を目的とした働く者のための自主的活動として行われたものであり、その配布活動は組合員の要求を忠実に組合活動に反映させるために行つたものであるから組合内部における言論の自由の範囲内のことであり、被告組合の団結を阻害するようなことは全く考えられないばかりか、被告組合にとつていかなる不利益も生じない。原告らの活動は健全なる労働組合存立のための両輪の一つである組合の内部的民主制の実現を目指したものであり、正当な組合活動である。

また、原告らが発行、配布したビラの内容は、いずれも経済闘争に関する要求・資料、労働条件の改善、労働災害の問題点、組合運営の問題点などであつて、すべて事実に基づきもの言えぬ組合員の声を代弁したものであり、或いは被告組合の違法・不当行為を道理と節度をもつて批判したものであつて、事実の歪曲とか誹謗・中傷といえるものはない。

更に、原告らは、被告組合の民社党一党支持の押しつけ並びに被告会社と一体となつた「企業ぐるみ選挙」運動に対して一貫して批判する活動を行つてきたが、右は組合本来の目的の範囲外というべき活動に向けられた批判活動であるから、原告らの右批判活動が被告組合の方針あるいは機関決定に反するからといつてこれに対し統制権を及ぼすことはできないというべきである。

(三)  したがつて、原告らの活動は、被告組合規約第十三条第一項第二、第三号に定める制裁の事由には該当しないものであつて、組合による統制の対象となるものではない。

五  再抗弁

1  解雇権の濫用

(一) 本件解雇は本件ユ・シ協定の履行を理由とするものである。しかるところ、本件除名がそもそも統制の対象となり得ない原告らの活動に対してなされた違法無効なものであることは、前記四3「原告らの反論」のとおりであるから、これを引用する。また仮に原告らの活動が統制の対象となり得るものであつたとしても、本件除名が統制の合理的範囲を逸脱した統制権の濫用若しくは適正手続の保障を欠く違法無効なものであることは後記2及び3において主張のとおりであるから、これを引用する。したがつて、本件除名が違法無効である以上、本件ユ・シ協定の履行を理由とする本件解雇も解雇権の濫用として無効である。

(二)(1) 被告会社は被告組合との本件ユ・シ協定により原告らを解雇する一応の義務を負うとはいえ、右協定は原則として解雇義務を負ういわゆる「尻抜ユニオン」と称せられるものであり、右協定に関する覚書には「会社において疑義があるとき、組合はその審議に応じ会社の疑義が解決する迄会社は解雇を留保する」と約定されており、被告会社には解雇に関する独自の判断権が留保されている。

(2) ところで、被告会社は、昭和五四年一〇月二五日午後五時過ぎ被告組合から原告らの除名処分が決まつたこと、本件ユ・シ協定の履行についての団交の申入れをしたい旨の電話を受け、同日午後六時三〇分頃から四、五名の在勤役員と被告組合との間で二〇分ないし三〇分間の団交を行い、その後七名の在勤役員で役員会を開き、約二〇分間の会議の後に本件ユ・シ協定の履行を実施するという結論を出し、直ちに原告らに対し解雇通知を発送した。

(3) しかしながら、被告会社は、本件解雇のわずか四か月前に「会社及び蝦名らはこれまでの紛争の経緯に鑑み相互に正常な労使関係の確立に協力する」との中央労働委員会における和解協定を原告らと締結しており、本件解雇決定が右和解協定違反となることを十分認識していたし、また被告らのサイドに立つ学者でさえ昭和五四年九月一四日の代議員会での除名決定の前に、すでに本件の如き除名・解雇をした場合裁判になれば敗訴してしまうと被告組合と被告会社に助言しており、その意味で被告会社は予め本件解雇が法的には違法無効であることの認識を有していた。更に被告会社は、原告らの解雇という極めて重要な事柄を唯一の代表権のある社長の北村茂の海外出張中に、そしてわずか三週間くらい後の同人の帰国を待たずに在勤役員のみで敢えて決定してしまつた。

(4) 被告会社は、本件解雇に至るまで神奈川県地方労働委員会、中央労働委員会、厚木労働基準監督署、神奈川県知事、同県労働部、同県厚木労働センター等から解雇の猶予ないし慎重に対処するように要請・要望されていたにもかかわらずこれらをすべて無視し敢えて解雇を強行した。

(5) 右(3)及び(4)の諸事実は、被告会社において本件除名について「疑義」を差し挾むことのできる事由ともなるものであり、したがつて、被告会社は本件解雇を留保し得たにもかかわらず、その権利を行使することなく、被告組合の要求どおり極めて短期間のうちに解雇決定を行つたものであり、以上の諸事情に鑑みれば本件解雇は解雇権の濫用として無効である。

2  統制権の濫用

(一) 一般に労働組合からの除名という労働者にとつて「死刑」にも値する極刑は、労使の対抗・緊張関係が高まつている時期に組合員が使用者側と通じるような場合は勿論、そうでなくとも客観的に利敵行為と明らかに認められる行動をとつた場合、一定の手続を経て科せられるべきものである。ところが、本件除名処分の行われた時期は右にいうような労使間の対抗・緊張関係が高まつていた時期ではない。しかも被告組合は、そもそも昭和二八年当時の訴外総評全国日本自動車産業労働組合日産分会から分裂して第二組合として誕生したもので、以後一貫して労使協調、労使一体で組合運営がなされてきたのであるから、このような組合には対使用者との対抗関係の中で団結をより強固にするため統制権を発動する余地などはじめから存在しない。また被告組合は原告らのビラ配布行動に対しこれまで違法・不当な介入を行つたことがあるが、それも昭和五二年春闘時に理不尽な注意警告を発して以降今日まで特に注意警告等を発したことはない。すなわち被告組合としては、本件除名処分を断行した時点において原告らを除名しなければならない必要性はなかつたものであり、本件除名は実害はないが予防的になしたものにすぎない。

(二) 組合員の言論の自由及び組合批判活動の自由は憲法二一条や組合民主主義の要請から組合においても最大限尊重されなければならない。しかも本件の如くユニオン・ショップ協定の存在する場合は、除名は解雇に直結し、被除名者の生活にも重大な支障を及ぼすものであるから、その者の行為が著しく反組合的で積極的に組合の秩序を乱し組合結束を破壊するなど組合に対して著しく損害を与えたとか、組合の維持ないし発展に脅威を生ぜしめた事由に基づくものでなければ有効な除名とはいえないのであつて、このような重大な除名処分は被除名者の諸行為が組合の団結維持にとつて「明白にして現在の危険」が存在した場合にはじめて許されるべきものである。しかるに原告らの活動に右にいう「現在の危険」はなく、仮に原告らの活動の一部に行き過ぎと評価されることがあつたとしても、除名処分をもつてこれに臨むのは苛酷に過ぎ、社会通念に著しく反する。

(三) したがつて、本件除名処分は、その必要性がなく且つ著しく苛酷なものであり、統制の合理的範囲を逸脱したものであつて、統制権の濫用として違法無効である。

3  適正手続違反

(一) 前記のとおり除名は組合員としての資格を喪失せしめる最も重い制裁であり、特にユニオン・ショップ協定が存在するような場合は同時に従業員たる地位も剥奪し、組合員の生活にも重大な支障を及ぼすものであるから、組合員の権利保護の建前からいつて、その手続は特に慎重になされなければならない。そして、その手続においては、①被除名者に事前に知らされていること、②その中で除名の理由が明確にされること、③それに対し抗争の準備期間が与えられること、④弁明の機会が保障されること、⑤決定機関が事実を公正に判断して結論を出したことが必要であると解すべきである。

(二) しかるに被告組合は、一般組合員はおろか被除名者である原告らにすら全く秘密裡に代議員会で原告らの除名を決議し、原告らからその手続の不当性を指摘されるや、形式的要件を整えるため大会において原告らにそれぞれ一〇分間の弁明の機会を与えたにすぎない。しかも、被告組合においては代議員会代議員と組合大会代議員の構成が同一であつて、代議員会と大会の二つの機関を有することすら無意味な状態であり、いつたん代議員会で行つた決議を同一の構成員の組合大会において直前の各一〇分間の弁明で覆すことなど不可能なことである。したがつて、実質的決定というべき代議員会以前において十分な弁明の機会はもとより抗争の準備期間も全く与えなかつた本件においては、除名に関する適正な手続が行われたとは到底いえない。また、除名の理由となつた原告ら各人の言動については必ずしも明確とはいえないし、被告組合における組合大会が前記のとおり何らチェック機能を有していないことのほか、除名処分と他の軽い制裁処分との議決方法が全く同じであること、制裁の議題と他の議題との議決方法にも区別がないことなどからしても本件除名決議の手続的違法性は明らかである。

(三) 以上のように、本件除名処分は適正な手続を欠いた違法無効なものである。

五  再抗弁に対する認否及び被告組合の反論

〈中略〉

3 被告組合の反論

(一)  統制権の濫用に対して

(1) 原告らは除名処分が対使用者関係における利敵行為についてのみなされうるかの如く主張しているが、除名処分の対象は右に限られない。およそ労働組合は労働者の労働条件その他経済的地位の向上を目的として結成される団体であり、そのために憲法によつて団結権を保障されているのであるから、労働組合は団結を維持・強化するため組合員に対する統制権を有する。しかして、この統制権は、直接に使用者との団体交渉ないし団体行動などの関係で組合の団結力を確保するために行使されるだけではなく、組合規約や組合運営の指導方針とするところを無視して組合員が行動することに対しては、それが組合内部における活動で統制しうることは当然のことであり、除名の対象となり得る。しかるところ、原告らの分派活動及び名誉毀損の行為は、著しく反組合的であり、組合はもとより一般組合員に対しても被害、損害を与えており、原告らを組合員にしておくと到底被告組合の団結を維持できない状態になつていたのであるから、被告組合はその団結を維持するため原告らに対して統制する必要があり、またその統制の態様は除名という処分でなければ到底団結を維持できない状態であつた。

(2) 組合にとつて団結こそが唯一にして最大の武器であることを思えば、組合員の分派的行動がまず著しい反組合的行為として除名処分の対象となることは当然である。しかるところ、原告らの分派活動は長期間にわたる継続的かつ組織的なものであつて、被告組合がその団結を維持するために除名する必要があつたことは当然であり、かような分派活動を行つておきながら「実害はないが予防的に」除名されたなどという原告らの主張は悪質である。すなわち実害は現に生じており、しかも共産党の党支部「政治目標」によれば、昭和五四年八月には組合員の七〇パーセントは党によつて組織されることになつており、党による被告組合の破壊ないし支配は目前に迫つているのであつて、団結に対するその脅威は極めて大きいのである。

(3) 組合員の言論の自由や組合批判活動の自由が尊重されなければならないことは当然であるが、一方において、組合員である以上それはあくまでもよりよい団体意思の形成に向けられるべきこともまた当然である。したがつて、その内容の点において事実を歪曲し、徒らに組合の攻撃を目的とするが如く解される場合には批判の範囲を逸脱し、除名処分の対象となることは自明の理である。しかるところ、原告らが配布した「ぶひん」その他のビラの中には被告組合やその上部団体等を誹謗、中傷し、事実を歪曲して、組合、組合執行部、組合の運動や活動方針を攻撃して執行部、組合役員と一般組合員を離間分断し、組合内に動揺、混乱を生じさせることを企図した不当なビラが多数存在しており、これはもはや組合員としての正当な言論、批判活動の範囲を著しく逸脱したものであり、被告組合の団結に対する重大な脅威である。したがつて、被告組合はこの点においても原告らを除名する必要があつた。

(4) 原告らは、ビラを小田急線本厚木、伊勢原、大秦野等の駅前で地域住民にまで配布しており、そのため一般組合員及びその家族に対してまで多大な迷惑をかけている。原告らが組合の民主化等を標榜しながらビラの配布を組合員にのみ限定せず地域住民にまで行つていることは、組合に対する批判の限界を越え、原告らの活動が政治活動ないし政治運動であることを自ら証明しているものといえる。

(5) 更に原告らはユニオン・ショップ協定が存在する場合除名の可否は特に厳格に解すべきであるかの如く主張しているところ、ユニオン・ショップ協定によつて除名が解雇につながるにしても、それは組合運営上の統制処分の問題と、使用者による個別契約の解消すなわち解雇という別の側面に関する問題であつて、原告らの主張は法律的な考え方としては妥当でない。

(6) 労働組合は組合構成員の自由な意思に基づき構成されるものであり、その内部規律も組合員の自由意思に基礎をもつ。すなわち労働組合は自由にして自主的な団体であつて、内部規律に関する問題は本来組合の自治に任されるべきものであるから、組合員が組合の統制を乱した場合、これにいかなる制裁を課すかは組合が自主的に決定すべき事柄であり、それが権限ある機関により適法な手続によつて行われる限り有効なものとして取扱うべきである。したがつて、裁判所が除名の適否を審査するに当たつても、組合の自主的認定を尊重すべきであり、謙抑主義的な立場がとられるべきである。

(二)  適正手続違反に対して

(1) 本件除名処分は、被告組合規約に定められた手続によつて抗弁2(四)において主張のとおり行われたものであり、何らの瑕疵も存しない。しかも、組合規約上除名の対象となる者に対して弁明の機会を与えなければならないとの規定はないが、原告らが自認するとおり、被告組合は原告らの要求を容れて大会において原告らにそれぞれ十分な弁明の機会を与えた。しかして、原告らが右弁明において反省や陳謝の意を表し、爾後その態度を改める旨確約したならば、大会において原告らの抗告を容れる可能性は十分に存在したのであるが、原告らは、被告組合に対する統制違反や名誉毀損の諸事実につき全く反省や陳謝の意を表せず、逆に専ら自分達の行為の正当性を主張するに終始したものであり、要するに大会の決定は、原告らの弁明の内容如何にかかつていたのであり、原告らの主張するような代議員の構成の問題ではない。

(2) また原告らは、除名処分と他の軽い制裁処分との議決方法に区別がないこと、制裁の議題と他の議題についての議決方法に区別がないことをもつて本件除名決議の手続が違法である旨主張するが、除名は、組合大会の多数決によつて決定せられるべく、且つそれをもつて足りるものであり、仮に組合規約において除名決議は他の議題と異なる特別の決議方法によるべき旨規定されているにも拘わらずこれに反したというような場合であれば格別、被告組合の規約にはかような規定は全く存しないのであるから、本件除名決議の方法に手続的な違反があるとする原告らの主張はそれ自体失当である。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一請求の原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

抗弁1の事実は原告らと被告会社間に争いがなく、同2(一)及び(四)の事実は当事者間に争いがない。

二そこで以下、本件解雇と本件除名の効力について判断するが、本件解雇は本件ユ・シ協定に基づきその履行としてなされたものであるから、まず本件除名の効力を検討する。

1  被告らは、抗弁2(二)(1)の原告らの活動が被告組合の破壊ないし支配を企図した日本共産党の党細胞又は党支部活動すなわち政治活動であつて組合活動ではない旨主張するが、革新政党がそれぞれ独自の労働組合政策をもつて活動しているという現状(当裁判所に顕著である。)に照らせば、党細胞等としての活動と組合活動は必ずしも両立し得ないものではなく、組合活動自体が他面において同時に党細胞等の活動としての性格をもつことは十分あり得るのであつて、ましてや本件除名も被告組合規約に基づく制裁処分としてなされたものであるから、その有効性の判断も、原告らの思想・信条等はさて措き、原告らの具体的な活動そのものが制裁事由に該当するか否かを検討すれば足りるものというべきである。しかも、労働組合の統制権は憲法二八条による労働者の団結権保障の効果としてその目的遂成のため必要且つ合理的な範囲内で肯定されるものである(最高裁判所大法廷昭和四三年一二月四日判決・刑集二二巻一三号一四二五頁参照)から、右制裁事由該当性の判断の前提として、原告らの具体的活動がかかる見地から統制の対象となり得るか否かの検討も要求されることになる。

2  そこでまず、抗弁2(二)(1)(イ)のサークル活動について検討するに、例えば〈証拠〉には、同原告が被告会社の厚生課に所属するスキー部、サッカー部及びコーラス部で活動していたとの記載があるが、右のようなサークル活動は被告会社が主催する活動であつて、その活動自体は被告組合規約第十三条第一項第三号に定める制裁の事由に該当しないことは明らかである。もつとも証人坂根俊洋の証言によると、被告組合は原告らのサークル活動への参加を日本共産党の細胞による党員及び機関紙の拡大を目的とした活動と捉えていることが認められ、また〈証拠〉によると、被告組合の上部団体である自動車労連は運動方針書の中で民社党の育成強化を掲げ、これを組合の方針としており、被告組合も右運動方針にならい定期大会議案の中で民社党への入党促進運動、育成強化を方針として掲げていることが認められるから、原告らのサークル活動参加の意図するところが前記坂根証言のとおりであるとすると、それは被告組合の運動方針に反することになるということができるが、組合員個人の政党支持及び政党活動は本来的には憲法で保障されている思想、信条の自由に基づく市民的自由、権利の領域の問題であるから、組合の右に対する統制権もかかる市民的自由、権利との関係では一定の制約を受けるものというべきであり、右統制権の行使は組合員に対する勧告又は説得の範囲にとどまると解するのが相当であつて、右の範囲を越えて制裁の対象とするのは統制権の限界を越えた違法なものであるといわざるを得ない。そうだとすると、前記坂根証言を前提としても、原告らの活動は市民的自由、権利に属する事柄であるから、これに制裁をもつて臨むのは統制権の限界を越え許されないものと解すべきである。

また同(ヘ)の機関紙「赤旗」の配布活動並びに拡大活動についても、原本の存在と成立に争いがない丙第一〇号証、証人坂根俊洋、同安藤均一の各証言及び原告塚本雅晴本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると原告らが右活動をしていたことが認められるものの、これも前同様市民的自由、権利に属する事柄であるから制裁の対象となすことは許されないというべきである。

更にそのことは同(ト)の細胞組織の強化活動に関してもいえることであるが、被告らは右細胞組織の強化活動として原告らが具体的にいかなる活動をしたか明確な主張をしておらず、したがつて制裁の対象となし得る活動であるか否かも明らかでなく、かかる意味でも制裁事由該当性を肯認することはできない。

3  次に、被告らが抗弁2(二)(1)で原告らの活動であると主張しているもののうち右2において判断した以外のものにつき、その制裁事由該当性を検討する。

(一)  当事者間に争いがない事実と〈証拠〉を総合すると、次の各事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 「労研」結成までの活動

(イ) 原告蝦名は、被告会社の賃金その他の労働条件、労働環境等がその企業規模や他企業との比較において劣つているとの確信を抱き、ひいてはこれに対処すべき被告組合厚木支部の姿勢、体質につき疑問視するに至り、昭和四一年の賃上げ闘争以降職場大会、ブロック討議会等で積極的に発言してきた。そして同原告は、昭和四三年八月職場委員に選出されたが、昭和四四年一月頃右職場委員としての活動成果を高めこれを職場内に浸透させるべく同僚の訴外野口守らと協力して「学習会」を設置し、「物の見方はどうあるべきか」、「労働運動はどうあるべきか」等をテーマに学習し合つた。

(ロ) その余の原告らも、入社後被告組合のあり方や被告会社の労働条件、労務管理等に疑問を抱き、一部原告を除きそれぞれ職場大会やブロック討議会で積極的に発言したり、他の職場有志とともに「学習会」をもち労働運動等に関する学習活動をした。

(ハ) 原告亀山は、昭和四二年から昭和四四年九月まで被告会社緑ケ丘寮(独身寮)の寮自治会役員(階責)として入寮者の意見を聞き、これを要求として役員会を通じて会社側に提出するといつた活動をしてきたが、更に昭和四四年七月、原告岩村、同塚本、同後藤及び同小菅らとともに寮生活改善運動に取り組み、入寮者からのアンケートをもとに一部屋三人制を二人制にする、ゴミ焼却炉の設置、食事の改善等の改善要求をもつて会社側と交渉し、その結果報告と右改善運動への入寮者の参加を呼びかけて、何回かにわたりビラの配布を行つた。その後、右原告らは昭和四五年四月、他の入寮者有志とともに右運動を恒常的に発展させるべく「寮を明るく住みよくする会」を組織し、原告亀山がその代表となつた。

(ニ) 昭和四四年三月、被告会社第三製造課プレス職場において訴外有村正二が右手首切断の重傷を負うという労災事故が発生したが、原告岩村、同亀山らは、右事故の原因が被告会社の安全性を無視した生産性向上本位の管理体制にあつたものと決め、同じ労働者として有村への救援をなすべきであるとの判断のもとに、原告岩村において組合青年部の大会で有村へのお見舞カンパを提案したり、自らも原告亀山らとともに職場労働者や同期の入寮者に事態を訴え、有村へのカンパを募つた。

(2) 「労研」を通じての活動

(イ) 原告ら(但し原告鈴木を除く)は、昭和四五年二月職場の有志とともに「労研」結成に参画し、原告鈴木は昭和四六年春頃からこれに参加した。

(ロ) 「労研」は、結成当初被告組合がどうすれば好ましい労働組合になるかを検討すべくテキスト等を用いて定期的に学習会をもつたが、合わせて昭和四五年三月には「春斗にあたつて、厚木自動車部品労働者の要求」と題して各種の要求事項をまとめた「労研」名義のビラ(甲第二〇一号証の一ないし三)を配布し対外的に活動を開始し、その後の賃上げ闘争、一時金闘争においても原告らが中心となり組合員を対象としたアンケート調査活動を継続し、右調査結果をビラにまとめて配布したり(別紙ビラ一覧表番号16のビラもこれに含まれる)、組合員の生活実態、物価上昇率、会社の業績、他企業との比較、他労組の取り組み等を検討資料として組合員に配布した。

なお、原告亀山は、昭和四八年三月、「労研」の代表者訴外島田一徳とともに右アンケートの集計結果を賃上げ要求に反映してもらおうと被告組合厚木支部事務所に赴いたが、当時の支部長訴外池羽六郎は「そんなものは受けとる必要はない。我々はおとなの労働組合活動を行つている。そんな要求アンケートをとつて要求を決めるような子供じみたやり方はやらない。」とこれを拒否した。かようなアンケート集計結果の受取り拒否は「明厚会」結成後の昭和四九年春闘の際にもくり返されている。

(ハ) また原告らは、被告会社が昭和四五年七月従来無料だつた駐車場使用料金を一か月金三〇〇円徴収する旨の通達を発したことについて、これを労働条件の変更であるとし、被告組合に対し、職場討議によつて組合員の意見を聞き、その意見に基づき被告会社と団体交渉をすべきである旨の「労研」名義のビラ(甲第二〇二号証)を従業員に配布したり、昭和四六年一〇月被告会社が「夜勤五日制」を導入したことについて、それが実質的には労働強化につながるとしてこれに反対するといつた内容のビラ(甲第二〇七号証、丙第四八号証、別紙ビラ一覧表番号17のビラ内容もこれに含まれる)を従業員に配布したり、その旨職場大会において発言した。その他原告らが発行、配布に関与した「労研」名義のビラは別紙ビラ一覧表番号14、15及び18の各記載内容を含んでいた。

(ニ) 原告塚本、同後藤、同鈴木及び同小菅は、昭和四六年一〇月、第二製造課に所属していた有志とともに職場新聞「じゆんかつ油」を創刊した。これは「日頃口に出して言えない不満や要求を解決し、真に明るく働きやすい民主的な職場を作るためにはどうしたらよいかをみんなで考えよう」をスローガンに発行されたもので、昭和四七年一二月まで一四回にわたつて発行し、これを被告会社正門前等で従業員に配布した。「じゆんかつ油」は、発行の趣旨を述べた第一号をはじめとして、賃上げ闘争、一時金闘争に関する職場内の声や要求並びに他社比較等の資料を掲載したもの、労働条件の改善要求や労働者の生き甲斐についての問題提起、「じゆんかつ油」に対する職場の反応や被告会社側からの妨害の事実更に組合青年部による差別行為を報じたもの、組合役員選挙についての改善(投票の秘密確保)提案、労働組合の政治活動について訴えたもの、労働災害が多発していることを報じたもの等が主な内容となつており、別紙ビラ一覧表番号2ないし12の各記載内容は、これら「じゆんかつ油」に掲載された記事の一部分である。

(ホ) 「労研」では、昭和四七年一月全職場共通の職場新聞として「ぶひん」を創刊し、毎月一回発行を目標に昭和四八年七月までこれを継続し、発行時毎に被告会社正門前等で従業員に配布してきたが、原告らは右「ぶひん」の発行、配布活動に積極的に関与してきた。「労研」では右「ぶひん」の創刊号に「発刊にあたつて」と題し「この新聞は働く者の新聞です。みんなに知つてもらいたいこと、わかつてもらいたいこと、訴えたいことを大いに寄稿して下さい。」と呼びかけ、また各号の内容は、主として組合員からの投稿、アンケートの集計結果報告、春闘、一時金闘争のニュース等であるが、そのほかにも労働条件や職場環境に関する記事、被告組合や被告会社の選挙活動に対する批判等であり、別紙ビラ一覧表番号24ないし33の各記載内容はこれら「ぶひん」に掲載された記事の一部分である。

(3) 「明厚会」以降の活動

原告らは、昭和四八年九月二三日、「労研」を解消し、これに代わるものとして「明厚会」を設立した。同会は、組合を階級的、民主的に強化し明るい職場を作ることを目的とするもので、代表者には原告塚本が選出された。明厚会では「ぶひん」の発行、配布活動を継続し、賃上げ、一時金闘争におけるアンケート調査活動の結果報告や検討資料等に関する記事を掲載することでアンケート調査結果を組合活動に反映させようとしたり、被告組合の選挙活動や「ぶひん」の配布など原告らの活動に対する被告らの妨害行為等を記事にすることにより、被告組合の在り方に関する批判活動を展開した。原告らが「明厚会」名義で発行した「ぶひん」の記事には別紙ビラ一覧表番号34ないし64の記載内容も含まれている。

原告らは、そのほかにも別紙ビラ一覧表番号20ないし23の記載内容を含む「明厚会」名義のビラや同番号65ないし78の記載内容を含む「日産厚木事件争議団」名義のビラの発行、配布にも関与した。

なお、被告らは原告らが別紙ビラ一覧表番号1の「歯車」、同19の「増本一彦厚木自動車部品後援会」名義のビラ、同79の「民主青年新聞」、同80ないし88の「赤旗読者新聞」の発行、配布にも関与していた旨主張しており、証人坂根俊洋及び同池羽六郎の各供述にもこれに副う部分があるが、右供述部分はこれに反する原告塚本雅晴本人尋問の結果に照らし措信できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(二)  ところで、〈証拠〉によると、右認定の原告らの活動は日本共産党の支部又は細胞の活動方針書、総会議案書に記載されている活動と概ね符合していることが認められるから、原告らの右活動が右の党支部又は細胞の活動であるとする被告らの主張もあながち理由がないとはいえない。しかしながら、党細胞等の活動と組合活動とが両立し得る場合があることは前判示のとおりであり、そもそも労働者の団結活動は通常は労働組合を通じて行われるにしても、それ以外の団結活動もまた労働者の団結権の行使としての性格を失うものではなく、組合員の自発的活動であつても、それが労働者の立場からする労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を企図してその生活利益を守るための行為である限り正当な組合活動と解することができるものというべきである。そうすると、前認定事実による原告らの活動は、被告らの主張するとおりその基調にある思想、信条ひいては労働組合観に日本共産党の理念があることは否めないが、学習会活動は「労研」におけるそれも含め労働条件や組合に関する諸問題につき労働者としてとるべき態度について検討する自主的な研究活動といえるし、寮生活改善活動も、改善の必要性に関する原告らと被告会社の認識に相違があることは充分予想されるが、原告らの要求内容をみるとき会社の福祉厚生施設をより良いものにするための活動という面があることを否定することはできない。また、有村労災事故を契機としたカンパ活動も、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第五〇号証によると、事故の直接の原因は同人の機械操作上のミスによるものであることが認められ、原告岩村らが主張するような被告会社の労務管理に問題があつたとは断定し得ないにしても、同じ労働者として同人の窮状を救済するという意図でなされたものと解しうる右活動は労働者の生活利益を守るための活動と評価できる。さらに「労研」及び「明厚会」は原告らの独自の思想的背景に基づくものとはいえ、被告会社における労働条件、労働環境の改善や被告組合の健全化を目的とした組織体と認めることができるし、「労研」を通じてなされた駐車場料金徴収に反対する活動も、〈証拠〉によると、被告会社は自家用車を利用する通勤者のための駐車場用地として近隣の地主から土地を賃借しており、そのため多額の出費を強いられていたことから、その費用を受益者負担の見地から駐車場利用者に均等に負担してもらおうとの意図にかかる処置を講じたことが認められるが、従来無料であつたものを有料化するのであるから、労働条件の変更であるとしてこれに反対し、組合員の意見に基づき会社側と団交するよう求めた原告らの活動はそれなりに理由がないものとはいえない。また、「夜勤五日制」導入に関する件も、前掲乙第六七号証の一ないし四によると、その概要は従来の夜勤勤務が週六日、二二時から翌朝六時までの勤務となつていたものを、一週間の労働日数を五日とする、勤務時間を二二時から翌朝七時までとする、組合との協定による年間所定労働時間は変更しない、夜勤勤務手当の支給率を従来の一〇〇〇分の二一から一〇〇〇分の二四に改訂するというものであることが認められ、休日を増やし、手当支給率を引き上げるという点では労働条件を改善したものとして評価し得るが、反面一日の勤務時間はこれにより一時間延長されている点ではこれが労働強化につながるとする原告らの批判は理由があり、原告らの批判活動の意図するところもかかる部分を含めた労働条件の改善にあると解することができる。アンケート調査活動及びビラの発行、配布活動についても、ビラの内容に一部不相当なものがあるか否かの点はしばらく措くとし(この点は後に判断する。)、これらは概ね数多くの組合員の意見、希望を被告組合厚木支部執行部に伝え、同執行部をしてこれら組合員の要求を充分汲み取り、もつてこれを組合活動方針の中に反映させてもらわんがための活動であると認めるを相当とする。したがつて、原告らの活動は、いずれも労働者の立場からするその労働条件その他の経済的地位に関する生活利益を守るための活動及び被告組合をしてかかる活動に寄与すべきことを要求し、かつ被告組合の現状を批判した活動であるということができ、正当な組合活動と評価し得るものというべきである。

(三)  もつとも、労働組合の生命はなによりも団結力であるから、多数の意思によつて一旦決められた方針ないし行動日程が個々の組合員の主観によつてみだりに無視されたり、正規の手続をふまずに組合員が勝手な行動をなすことは、全組合員の団結力を結集することによつて当面の目標ないし課題を達成しようとする労働組合にとつて障害となることも皆無とはいえないのであつて、かかる意味から正当な組合活動と評価されるものであつても統制の対象となることは十分あり得る。したがつて、前認定の原告らの活動が統制の対象となるものであるか否かも、原告らの活動そのものの種類、性格及びその具体的態様、当該事項に関する被告組合の方針ないし行動日程更に原告らの活動が被告組合の活動に及ぼす影響等に応じて判断されるべきものというべきである。

しかるところ、まず原告らの「学習会活動」は前記のとおりの自主的な研究活動であるから、その性質上組合による統制の対象とはなり得ず、右学習会活動によつて被告組合の中に原告らと思想的基盤を同じくする組合員が増えることがあつたとしても、組合の運営はそもそも多数決原理によつて決せられるべきものであつて、かかる組合民主主義の見地からして、組合少数派による同調者の拡大活動を統制の名の下に排斥することは許されないものというべきである。また、「労研」及び「明厚会」は、原告らの思想的基盤を前提に被告組合の体質改善をめざした団体であるから、その結成自体は学習会活動と同様の意味で統制の対象となり得ないと解すことができる。被告らは、特に「明厚会」について、被告組合を「敵」と位置付けその破壊ないし支配を目的とする組織であると主張しているが、本件証拠上「明厚会」がかかる組織であるとまで認めるに足りる証拠はない。

〈証拠〉によると、寮の設備や日常の運営上の諸問題に関する入寮者の要求は寮自治会を通じてなされることになつており、合わせて被告組合厚木支部もこれと連携して要求実現をめざしていたこと、原告らが改善を要求していた内容はそのほとんどが自治会役員間ですでに検討されていたものであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、原告らの寮生活改善運動は、本来寮自治会を通じてなされるべきものであり、また被告組合員としては、まず被告組合内においてその組織上の手続をふんで組合の要求活動として行われるべきものであり、これらを無視した原告らの活動は、右活動の必要性にも疑問がある部分のあることをも勘案すると、統制の対象となる可能性は十分にあるといえるが、未だ「組合の統制を乱した」とまでは断定することはできないものというべきである。

カンパ活動については、原告岩村において組合青年部にこれを提案したものの協力が得られなかつたことから自らこれを行つたとの経緯があるが、前掲甲第三四三号証の一によると、被告組合がカンパ活動を行わないという趣旨は被告会社において既に十分な補償をしているからその必要性がないと解したためであると認められるから、原告らが進んでカンパ活動をすること自体は、組合の方針に反するものとはいえず、右は組合の統制を乱した活動であると解することができない。

更に原告らのアンケート調査活動についても、池羽証人は組合員の欲望を煽るものであると断定しているものの、これが組合員の生の要求を汲み取る方法として一応は評価できるので、これを禁止すること自体合理性はなく、組合員の要求を組合の方針に反映させるべくなされた右活動は、原告らの自主的活動であるとしても、これにより「組合の統制を乱した」とは評価し得ない。

そうすると、本件除名との関係で問題とされるべき原告らの活動としては、「労研」又は「明厚会」を通じてなされたビラの発行、配布、宣伝活動(駐車場料金徴収反対、夜勤五日制導入反対活動も含む)及びその中に被告組合批判等に及ぶ内容があるということに尽きるといえる。

(四)(1)  ところで組合員の言論、批判の自由は、憲法二一条に基盤を持つ民主主義における重要な権利であり、特に労働組合が民主的団体である以上、組合の健全な運営にとつて組合員の活発な発言ないし批判の自由は不可欠な要素であり、かかる意味での言論の自由の保障がなければ組合の存立、発展はあり得ないといえる。したがつて、組合員の組合ないし組合執行部に対する批判活動も原則として自由であるというべきである。しかるところ、池羽六郎証人は、組合の機関の会議や手続以外での言論批判活動は許されず、統制の対象となり得る旨供述するが、批判活動が組合機関における発言であろうとあるいはビラ、機関紙を通じてなされたものであろうと、そこには本質的な差異は存しないものというべきであるから、いずれの場合も言論、批判の自由は保障されるべきものであり、右の池羽証人の供述の如き見解は到底採用できない。

もつとも右のような言論、批判の自由も組合員たる資格を保持する限り労働組合としての団体行動の枠をふみ外し得ないことはいうまでもないのであつて、かかる見地からして、当該ビラの内容、配布の時期及び配布の対象等を総合判断して一般に組合の団結、秩序維持に影響を及ぼすおそれがあるとみられる場合には統制の対象となり得るし、ビラ等の内容が事実を歪曲し、徒らに誹謗・中傷にわたつて攻撃を目的とするが如く解せられる場合にも統制の対象となり得る。さらに、組合内で一旦適法に決定された方針についてこれに反対する活動をなすこともそれが統制権の範囲内に属する事項である限り統制の対象となり得るものというべきである。

(2)  原告らが「労研」又は「明厚会」を通じて発行、配布したビラの種類及びその内容については、先に原告らの活動として認定したとおりであるが、これらは、春闘、一時金闘争等の経済闘争に関する職場の要求や意見、社会情勢、経済指標、他企業の動向、会社の経営分析などを討議資料とすべくビラにしたものと、被告組合や執行部の在り方、被告会社の労務管理等に対する批判を内容としたものとに大別することができる。

(3)  そこでまず前者のビラの発行、配布について検討するに、〈証拠〉によると、被告組合における賃金闘争の要求決定過程はまず上部団体である自動車労連において各種状況分析のうえで要求水準が決められ、これに基づき職場討議がもたれ、更に被告組合の常任委員会でこれに準拠した格好で要求案を作り、これをまた職場大会にかけるという方法がとられていると認められるものの、いずれも〈証拠〉によると、その討議資料はいずれもほとんどが全般情勢の説明に費されており、要求実現のための組合としての具体的な行動方針は何らふれられていないことが認められるから、原告らが賃金闘争に当たりその討議資料とすべく発行、配布したかかるビラは、職場討議の実効性を高めるうえで有用なものであるといえるし、また、原告らはアンケート調査結果を組合活動に反映させるべく被告組合厚木支部長に申し込んだが、組合側ではこれを拒否しているといつた事情をも考慮すると、原告らがビラの配布という手段をとつたことはやむを得ない部分もあるといえる。更に本件証拠上かようなビラ配布活動が被告組合の賃金闘争における要求達成に支障となつたとの事実は認められないし、かえつて〈証拠〉によると、昭和四九年春闘における賃上げ率は被告組合の要求平均三〇パーセントを上回る平均34.51パーセントで妥結しており、ちなみに「明厚会」によるアンケート調査結果による要求は平均36.78パーセントであつたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、原告らのかようなビラの発行、配布活動は、被告組合による労働条件基準定立活動を阻害するものとは認められないから、かかる活動は「組合の統制を乱した」と評価することはできない。

(4)  原告らが発行、配布に関与したビラのうち右(3)で述べたもの以外は概ね被告組合、組合執行部及び被告会社の批判を内容とするものであると解せられることは前説示のとおりであるが、被告らは、これらのビラの発行、配布が「組合の統制を乱した」だけでなく「組合の名誉を汚した」ものである旨主張している。しかるところ、当該ビラの内容が後者に該当する場合にはかかるビラの発行、配布は統制違反の問題にも結びつくということができるので、まずは右ビラの内容が「組合の名誉を汚した」といえるかどうかについて検討する。

(イ) 被告らが抗弁2(三)(1)で事実を歪曲し組合を誹謗、中傷したビラであると主張しているもののうち、別紙ビラ一覧表番号1、19、79及び80ないし88のビラは、その発行、配布に原告らが関与していたとは認めることができないことは前判示のとおりであるから、右ビラの内容をもつて本件除名の理由とすることはできない。

(ロ) 被告らが組合の選挙活動に関する事実に反する非難、不当な表現にあたると主張している別紙ビラ一覧表番号12、77及び78の各ビラの問題個所について検討する。

まず、被告組合が民社党への入党促進運動、育成強化を方針として掲げていることは前判示のとおりであるところ、〈証拠〉によると、被告組合は職場長会議で民社党の啓蒙活動を図つたり、日常活動で把握した対象者に対し常時組合事務所に置いてあつた入党申込書・パンフレット・「週刊民社」を利用して入党を勧誘し、大量の入党手続をとり、入党者の人数の把握等の事務的な取りまとめについても専門部を設けており、また組織強化活動推進カンパへの積極的協力などを呼びかけていることが認められるし、〈証拠〉に見られるように組合機関紙の紙面が選挙ニュースで独占されることもあるが、かような被告組合による民社党支持及び選挙候補者の推薦については組合員間の討議にかけられたものと認めることのできる証拠はなく、むしろ被告組合との間で成立に争いがなく、被告会社との間では原告塚本雅晴本人尋問の結果及びこれにより成立が認められる甲第三五五号証により成立が認められる同第三二二号証によると、三会(日産係長会、日産安全衛生管理主任会、日産工長会)なる団体が「組合民主化に関する申し入れ書(案)」として被告組合に提出した文書の中で「支持政党にいたつては、そのときどきの情勢や執行部の考え(特にトップの考え)で変わり組合員が理解できない点が多い」と指摘していることが認められるから、これをも考慮すると、前記12のビラにいう「民社党を全組合員の賛成もえないでかつてに支持し選挙活動をやる」という批判も理由がなくはなく、かかる選挙活動は組合民主主義に反するとの批判もあながち不当とはいうことができない。また、前掲甲第三二二号証によると、右三会名義の文書では被告組合における政治活動により組合員に無理な活動を要請し、家族を含めた精神的・肉体的負担を大きくしているし、また地元との板挾みで苦労していると指摘していることが認められるし、〈証拠〉によると、日産が昭和六〇年一二月付で別紙記載の「労働組合の政治活動及び選挙活動に対する会社の取り組みについて」と題する文書を出したことが認められるところ、右文書の内容からして、被告組合と被告会社との間にも原告らが批判するような「企業ぐるみの選挙」という実態があつたことは容易に推認できるところであり、そうすると前記77、78の各ビラの内容も、その表現方法に穏当を欠いた部分があるにしても、批判自体は正しいものであるということができ、そして右の程度の表現方法の不穏当さをもつて右批判自体の正当性が失われることはないものというべきである。

(ハ) 次に組合を侮辱するものとして主張している別紙ビラ一覧表番号52、21及び62のビラの問題個所について検討する。

まず右52のビラの問題個所である「プリンス自工支部の方が現在の日産労組よりもはるかに自由と民主主義があつたことは事実だつた。」という表現は、原告らと思想的基盤を同じくする労働組合観に由来するものと解されるが、かかる批判は組合内部の路線闘争として批判、反批判の相互活動の中で処理されるべきものであり、必ずしも被告組合を侮辱したものとまでは断定できず、また、「クソッタレ」という言葉についても、それ自体は極めて下卑た言葉で不穏当なものであるが、〈証拠〉及び弁論の全趣旨によると、それがビラ「ぶひん」の中での組合員の不満や要求を掲載する欄のタイトルであることが認められるから、これを直ちに被告組合に対する侮辱・誹謗としてとらえることは妥当でない。

次に〈証拠〉によると、被告組合では経営協議会活動と生産性向上活動の積極的推進を具体的活動方針にかかげていること、一方〈証拠〉によると被告会社の社内報でも労使の協調による生産性向上を謳つていることがそれぞれ認められるから、かかる点をとらえ被告組合と被告会社との癒着だとする批判は原告らの労働組合観を前提とした場合ある程度予想し得る事柄であり、かかるイデオロギーの対立を前提とした一方からのかかる批判は、それが相手方を侮辱し、その名誉を毀損するような中傷・誹謗に至らない限り、言論、批判の自由として保障されるべきであり、また〈証拠〉をみると、被告会社及び被告組合員らによる原告らへの差別や暴力、吊し上げの事実が全たくなかつたとは到底いえないところであり、組合が弱いので給料が安いとの批判も、昭和四九年度の賃上げ妥結額が組合要求額を上回つたとの事実に照らせば許容された限度内の批判であるといえるから、前記21のビラの問題個所も決してその許容される程度を超えた攻撃の言葉とはいえない。

さらに前記62のビラの問題個所に関しても「ムチャクチャな民主主義否定であり、ヒットラーでさえびつくりする程の全体主義」という表現はそれ自体穏当ではないが、その前後関係からみると、原告らのいわんとするところは組合による民社党支持の押しつけという点に関する批判の趣旨であると解せられるので右(ロ)と同様内容的には必ずしも不当なものとはいい難い。

(ニ) 更に組合運営に関する前記22のビラの問題個所につき証人池羽六郎は組合執行部への不信感を植えつけ、煽動をするような記載であると指摘するが、右のビラである原本の存在及び成立に争いのない丙第五三号証の趣旨、内容を検討するとき右池羽証人の指摘するような記事とは断定することはできないし、組合の賃金要求に関する団交を誹謗したものであると主張している前記31のビラの問題個所に関しても前記21のビラに関して述べた事情を考慮すると必ずしも不当な内容とはいえない。組合執行部を批判した前記50及び61の各ビラについても、前者に関しては前記21のビラに関して述べた事情や〈証拠〉によつて認められる組合役員経験者がほとんど例外なく被告会社で出世、優遇されているとの事実に照らせば、必ずしも、誹謗、中傷とは断定し得ないものであり、後者に関してもこれがアンケートの結果をのせたものであるから、文書の性質上これをもつて原告らを非難することは妥当でない。

(ホ) しかしながら、前記44、7及び11の各ビラの問題個所に関しては、証人池羽六郎の証言によると、昭和五一年賃闘において組合が当初の一三パーセント要求から引き下げられた10.8パーセントで妥結したことや休日増加に関する会社側との交渉に関してはいずれも職場討議を経たうえでかかる交渉をしたことが認められるから右の各記事内容には事実に反する部分があることになるし、前記28及び33の各ビラの問題個所については、いずれも既に批判の域を越えた誹謗以外の何ものでもないし、さらに前記4及び58の各ビラの問題個所についても、前者は当時の自動車労連会長塩路一郎を念頭においた揶揄、嘲笑に当たるものであり、後者も「組織にあぐらをかき、行政機関を敵に回すような生意気な態度」、「人物の大きさみたり組合長、たつた一枚のビラに血迷う」との表現は個人に対する人格攻撃以外の何ものでもない。

(ヘ) したがつて、原告らが発行、配布に関与した各種ビラのうち右(ホ)に記載した各ビラの問題個所は「組合の名誉を汚した」と評価し得るものということができる。

(5)  そうすると組合の名誉を汚したと評価し得るビラに関しては、かかるビラを通じてなした組合及び組合執行部等に対する批判活動は、もはや言論、批判の自由の保障外のものといわざるを得ず、当然に「組合の統制を乱した」と評価することができるが、原告らのなした他のビラの発行、配布活動については、これが「組合の統制を乱した」とまでは認めるに足りる証拠がない。もつとも原告らが「労研」を通じてなした「夜勤五日制」導入に反対する活動や駐車場料金有料化に反対する活動については更に検討を要するところ、まず〈証拠〉によると、被告組合では具体的活動方針の一つに労働時間の短縮化を掲げ、その具体的な取り組みとして週休二日制、夜勤五日制の検討を進めており、かかる方針に基づいて段階的に逐次時間短縮を伴う休日増加の実現をめざして被告会社との交渉に当たつていたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。しかるところ、原告らは前記のとおり「夜勤五日制」の導入に当たりこれが労働強化につながるとして反対活動をしたり、休日増加処置に関しても前記7及び11のビラを発行、配布して反対活動を展開してきた。そうすると労働時間の短縮を求めた要求活動は労働条件の改善、定立のための活動であつて、かかる事項については、組合意思が一応最終的に決定された場合、組合員としてはその決定に拘束されるべきものであるから、これに反対する原告らの右活動は「組合の統制を乱した」ものといわざるを得ず、また駐車場料金徴収問題についても同様の意味で組合決定に反対する原告らの活動は「組合の統制を乱した」活動といわざるを得ない。

4  ところで被告組合は、労働組合が一種の自治を認められた団体であることから原告らの活動に制裁事由該当性が肯認された場合いかなる制裁処分を課すかは組合が自主的に決定すべきものであり、裁判所が判断をなすに当たつても組合の自主的判断を尊重すべきであると主張する。しかしながら、労働組合の自治もおのずから一定の限度があるのであつて、当該処分に関する組合の判断が社会通念に照らし著しく合理性・妥当性を欠く場合には裁判所が右判断に基づく組合の統制処分を統制権の限界を超えたもので、無効であると判断し、その処分を受けた組合員を救済することができることはいうまでもない。しかるところ、被告組合規約には制裁処分として譴責、罷免、権利停止及び除名の四種を予定しており、除名はその中で最も重い処分であり、しかも本件の如くユニオン・ショップ協定が存在する場合は、除名処分によつて同時に従業員たる地位も剥奪され組合員の生活にも重大な支障を及ぼすものであるから、制裁として除名処分を選択するには、その行為の態様において重大な統制違反若しくは著しく組合の名誉を汚す場合又はその情状において特に重い場合であつて、しかも組合の団結を維持するためにやむを得ない場合でなければならないものと解するを相当とする。

かかる見地から本件除名の当否について判断するに、被告らが制裁事由に該当すると主張している原告らの活動については、そのほとんどが右該当性を肯認することができず、一部のビラ発行、配布活動及び批判活動に右該当性を肯認できるものの、かかる活動によつて被告組合の団結が著しく侵害されたと認めるに足りる証拠はない。しかも原告らの活動が、その思想的背景はさて措き、被告組合の民主化をめざした活動であることも考え合わせると、その活動に一部制裁事由に該当する部分があつたとしても、それ相応の制裁は許されるものではあるが、これに除名をもつて臨むのは社会通念に照らし著しく合理性、妥当性を欠くというべきであり、したがつて本件除名は統制権の限界を超えて無効であるといわざるを得ず、原告らは未だ被告組合の組合員たる地位を有しているものというべきである。

5  そこで次に本件解雇の効力について判断するに、被告会社は本件ユ・シ協定の履行として本件解雇をなしたものであり、他に右解雇の合理性を裏付ける特段の事情を認め得る証拠は存しない。しかるところ、本件除名が統制権の限界を超えて無効であると判断されるべきものであることは前判示のとおりであるから、本件ユ・シ協定に基づく本件解雇も解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない。そうすると原告らは未だ被告会社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあるというべきである。

三そこで、原告らの賃金及び一時金の請求について判断する。

本件解雇が無効であることは前判示のとおりであり、被告会社が本件解雇以降原告らの就労を拒否していること(請求の原因4中の事実)も前判示のとおりである。

ところで、本件ユ・シ協定にはその覚書として「会社において疑義があるとき、組合はその審議に応じ会社の疑義が解決する迄会社は解雇を留保する」と約定されていること並びに被告会社が本件解雇をなすまでの事実経過すなわち再抗弁1(二)(2)の事実はいずれも原告らと被告会社の間に争いがない。そこで右事実によると、本件解雇は、本件ユ・シ協定の履行としてなされたものであるにしても、解雇労働者たる原告らとの関係では被告会社が本来使用者として有している解雇権の行使として独自の判断と権限に基づいてなされたものといわざるを得ず、さすれば右解雇が無効であるのにこれを有効と解したうえでの労務の受領拒否による不就労も、被告会社の責に帰すべき事由によるものと解するのが相当である。したがつて、被告会社は原告らに対し右不就労期間中の賃金等の支払義務を免れることはできないといわざるを得ない。しかるところ、請求の原因5(一)の事実並びに同(二)の事実のうち被告会社における昭和五四年の年末一時金支払時期が同年一二月五日であること及び原告らに支給されるべき一時金の額が別紙債権目録(五)記載の金額を下らないことは原告らと被告会社の間に争いがない。もつとも原告らの主張する一時金の額は同目録(四)記載の金額であるが、同目録(五)記載の金額を超える部分についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

したがつて、原告らは被告会社に対し昭和五四年一一月分以降の賃金(但し、以後のベースアップ分を除く)として同年一二月以降毎月二五日限り別紙債権目録(二)記載の金員を、また同年の年末一時金として同目録(五)記載の金員をそれぞれ請求し得ることになる。

四結論

以上の次第で、原告らの被告会社に対する請求は主文第一、第三項の限度で理由があり、被告組合に対する請求は全部理由があるからいずれもこれを認容し、被告会社に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邊昭 裁判官青山邦夫 裁判官小池喜彦は転補につき署名捺印できない。裁判長裁判官渡邊昭)

別紙債権目録(一)〜(五)〈省略〉

別紙「労働組合の政治活動及び選挙活動に対する会社の取り組みについて」〈省略〉

別紙「ビラ一覧表」〈省略〉

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